結局ワラビさんは次回の契約更新で辞めることになった。昨年6月に来てもらってまだ1年も経たないのに。気さくで、なんでも真面目に丁寧、明るく対応してくれるワラビさんは本当に貴重な存在。派遣社員なんかではなく、もっと安定して長く勤めてもらいたい人だ。「ワラビさんを手放したくないんです」「なんでもしますから、どうやったら続けてもらえますか」。恥ずかしげもなくかき口説いてもダメだった。
結婚しているワラビさん、先日携帯に届いたダンナからのメールを見て「失敗したー」と声を上げる。どうしたんですか?と聞くと、毎朝、会社に持っていくための熱いお茶をそれぞれの保温水筒に入れて準備しているという。ところがこの日、ダンナのかばんの中にお茶があふれてしまったとのこと。「そういえば、パッキンをつけないで栓をしてたー。どうしよう」と嘆く。確かに、あんなにささやかなものでも、パッキンは侮れない。「もし怒られたら、自分の水筒の準備くらい自分でしろや!、と逆ギレでしょ」とアドバイス(?)。家に帰ってこの話をオトノ様にすると「そりゃ、自分の水筒の準備くらい自分でしろ、と逆ギレせななぁ」とまったく同じ意見。「長年、調教されたからね」と澄まし顔だ。
引き止めたとき、ワラビさんはいろんなことを話してくれた。予想した以上に仕事が多く、家事がおろそかになってしまったこと。ダンナは特に何も言わないが、自分自身に罪悪感があること。最近ダンナの仕事の形が変わり、早く帰って家で仕事をするようになった。疲れて帰ってきて、家でも仕事をしているのだから、早く帰っているからといって家事を頼むことはできない。ダンナは電子レンジが大嫌い(分子をいじるのが許せないそうだ)だから、作り置きしてチン!ができない。そろそろ子供を持つことも考えたい(ワラビさんは卯年)。家に一日閉じこもっているよりも外に出たほうがいいと、働くことには賛成してくれた。でも、それは家事に影響のない日中のアルバイトレベルだと思っていたらしく、今回、フルタイムでの仕事を決めてきたときは驚かれた・・・。
若いころ、パティシエを目指したこともあったらしいワラビさん。元々料理が得意なのだろう。その腕前を発揮できない自分へのいらだちもあるんだろうな、と思いつつ、なぜなんだろうと何度も何度も思ってしまう。
こんなに有能で、こんなに社会から求められて、こんなに稼いでくれる妻に、どうして夫は家事をしろ、あったかいご飯を準備して待っていろと言うのだろう。そして妻は、なぜ自分の仕事より夫の仕事を優先させることを選ぶのだろう。家計効率からすると、そのほうが正解なんだろうか。
ワラビさんやそのダンナを責めるつもりも非難するつもりもまったくない。私はただ知りたいだけだ。こんなご時世であっても、仕事と家庭を2人協力して両立させることよりも、役割分業を選ぶルーツを。
パッキンは侮れない。一事が万事。逆ギレか嘆くか。どちらが正解かなんて、だれにも決められない。