逃した魚を釣り上げる

5月に町家を紹介する知人の家に行って以来、ほそぼそと物件探しは続いていた。そんな中でも気持ちはゆらゆら揺れ動く。車を運転しながら改めて「ああ、コワイ。早く引っ越したい」と思い、市役所に期中転園について「う〜ん、厳しいですねぇ」と言われては「今保育園に行けてるこの既得権を守り続けるべきかも」と思い、保育園で友達と楽しそうにしているオシメ様を見ては「転園なんて親のエゴかしら」と猛省し。右に振れたり左に振れたり、いい加減疲れる。
オトノ様が条件に合いそうな町家を見つけてきたが、現実味を持って見ることができない。とはいえ、来年度から転園するなら、年内には次の住居の目処をつけなくてはならない。しびれを切らしたオトノ様が、先の町家について不動産屋に問い合わせてみると「もう決まっちゃったんです」。ガックリ。・・・うだうだ考えてばかりで、大きな魚を逃してしまったのかな、私たち。開き直ったオトノ様は「町家にこだわっていられるか!」とばかりに条件に合う立地、広さ、家賃の家を片端からネットでピックアップ。先日不動産屋に行ってきた。
「逃した魚は大きいって言いますか、私どもから見たら同じような物件なのに"前の方がよかった〜"なんて立ち直れないお客様も多いものですよ」。私たちが直前に魚を逃したことなんか知る由もないオニイちゃんが物件まで案内する途上、世間話のように語る。うーん、そんなもんかもね。先日のことがあるだけに、やけに胸に響く。物件は築30年の古い家。昭和臭がぷんぷんしてる。でも・・・。「古さの"味わい"みたいなのがないもんですねー」とオトノ様。ああ〜言っちゃった。贅沢かもしれないけど、まさにそんな感じ。正直ボロいだけ。するとオニイちゃんが言った。「この近くにウチが手がけた町家がありますけど、ご覧になります?」
は? 町家ですって? よくよく聞いてみると、先日オトノ様がふられたばかりの、まさにその町家だった。この8月に全面改修されたばかりで、来年夏までフランス人一家が住むことになっている。その次でよければ・・・とのことだった。しかもこの日が鍵渡し。今のうちなら中も見られますよ、とのことで大急ぎで飛んで行く。でかした、オニイちゃん!
思いもかけず、逃した魚を釣り上げた。逃した時は大きかった。ふたたび釣り上げてさらに大きく見える。これも縁なのか。信じていいのか。まだまだ惑う日々が続く。