密室の社交辞令

ビジネス界には「エレベータートーク」というものがあるらしい。エレベーターが所定の階に着くまでのわずかな時間で繰り広げられるトーク。要領よく話をまとめて、このわずかな時間でキーマンに報告し、チャンスをモノにしようっていう野心的なビジネスマンには、ぜひとも積極的に活用していただきたいエレベーター。
しかし、特に野心的でもなく、キーマンと乗り合わせることもない私はこの時間が苦手。ブラックリストの常連ジミー氏と2人きりになった日にゃ、冷たい沈黙が支配する。1階までは約30秒、なんとも苦痛で長い時間。
もともと社交的な方でなし、とっさに出てくる話題もない。ジミー氏はもちろん、誰と乗り合わせたところで、何も言葉は出てこない。別に聞きたいこともなし。しかし、この奇妙な沈黙は気持ち悪い。どう処理するべきか。こんな情けない悩みも、らくらくクリアする人はいるものだ。先日、珍しくルアー氏と乗り合わせた。
「寒くなったな」「そうですね」「いきなりやね」「ホントに」「家、○○やったっけ?」「そうです」「こっちより寒い?」「そうですね」「やっぱり違うんやな」「そうですね」「まぁ、夏はええわな」「ホントに」・・・ハイ、30秒。私「そうですね」と「ホントに」しか言うとらんがな! 
とはいえ、フツーに成立する会話。妙な沈黙もなく、答えづらい質問もなく、気を使うこともない。ロンドン紳士に倣って、お天気の話題というのは本当に無難だ。最近本社に来るまではずっと営業部門の好青年だったルアー氏、さすがでございます。思えば、やはり営業の人っていうのは場つなぎ上手なのだろうか。営業部のキゾク氏もシラカワ氏も、エレベーターで乗り合わせたときの会話は「お天気」と「住まい」だった。「寒いな(もしくは暑いな)」「どこ住んでんの?」で始まって終わる会話。これもひとつのテクニックか。
コツはわかった、あとは実践あるのみ!・・・でもジミーなんかとしゃべりたくはないなぁ。