すっぴんと本音

韓流ボーイズグループTREASUREのライブのため神戸まで。寄り道せずに帰ってきたけど、家に着くと23時を過ぎていて、お風呂だなんだとバタついているうちに日付が変わる。非情にも朝からいつもどおり授業はある。6時半から起こし続けて、ようやく7時に目を覚ましたオシメ様。出かけるまであと15分ほどしかない。歯磨き、着替え、寝ぐせ修正…とやっているとメイクに勤しむ時間はなく、めずらしくほぼすっぴんのままで出て行くことに。「ガッツリメイクのオシメと、今のオシメ、どっちがかわいい?」と言われ、答えに詰まった。

寝不足で少しむくんだ顔。重たく腫れたまぶた。キリっとしていない眉毛。この顔と比べたら、メイクをしているオシメの方が断然かわいい。しかし、高校生のガッツリメイクを認めてしまうのは、母親としてどうなんだろうという思いもある。「……今の顔、かな」詰まりながらもそう答えると、ふーん…と言いながら出て行った。

アトピーのために変なものを肌につけられなかったというせいもあるけれど、私も周囲の友人たちも、高校時代にメイクなんて一切やっていなかった。せいぜい日焼け止めとBan16。私が若い時にできなかったことを娘のあなたに託すわ!といった代理戦争な気分は全くない。「10代の今しかできないファッションがありメイクがあり、それができる環境にいるのなら、思う存分楽しみんさい」と生あったかく見守る感じ。うまく説明できないけど、「命短し恋せよ乙女〜」とすみっこで歌ってる老人みたい(誰が志村喬だ)。だから、オシメ様のメイク・ファッションに対する私のスタンスはゆるゆるだ。

先日、書道部のみんなとのZOOM飲みに乱入したオシメ様は「お母さんの高校時代よりイケてるやん!」と言われていた。「そうなの、最近この子ガッツリメイクでさー、私よりメイク道具持ってるねん。私の高校時代にはなかった文化やわー」と続けると、ちょっとした沈黙があった。

「あの時、みんなドン引きしてたと思う」と言うとオシメ様は「なんで?」と全く気付いていないようだった。ガッツリメイクしている高校生なんて、「頭悪い不良」みたいに思われる時代やったからね、母ちゃんたちのころは、と答える。アンタも頭悪い不良と思われたかもねーと。

でもさ、と白状した。この前、すっぴんの方がかわいいって答えたけど、正直、メイクしてる方がかわいいよね、と。 オシメ様は目を丸くして、その後、げらげら笑った。マジで?! ママの本音!!と笑い転げている。

でもさ、と続けた。化粧濃すぎてかわいくないときも実際あるけどね、と。

いちばん濃かったのは、今年の春くらいかな。オシメ様は回想する。そのころ、ある韓流ガールズグループの一人がものすごく好きだったそうだ。あの子の顔になりたい!という強い思いがあって、その子のメイクを真似て真似て塗り込んでいたらしい。確かにその頃のオシメ様は、鼻筋をしつこく描いて、もうタヌキみたいになっているのに満足できず、鼻の整形したい!とイライラしていた。

でもね、とオシメ様は続けた。その時ママが言ってん、「なんか、アンタがどうなりたいのかわかる」って。

言った。確かに言った。でも、私が「わかった」内容までは覚えていない。確かその時点でも明確な言葉にはなっていなかったはず。ただ、オシメ様のもがきが、イラつきが、何を目指していて何が手に入らなくて生じているものなのかが、わかる気がしたことは覚えている。

その時くらいからかな、メイク、あんまり濃くしなくなった。 オシメ様の回想は終わった。

私の何が、オシメ様の何を変えたんだろう。今回、オシメ様がげらげら笑ったことは、オシメ様の何を変えるんだろう。