私が帰宅したとき、オシメ様は制服を脱ぎ散らかした状態でTikTokに見入っていた。ただいま、おかえりの後はやりとりが続かない。特に珍しくないこととはいえ、その沈黙は妙な感じで、なんじゃこいつ、と多少いらついた。
夕飯ではまず、気になる生徒会役員選挙の結果を確認。めでたいことにダー君は当選、TED野郎A君も当選したらしい。よかったやん、あんたの応援演説のおかげちゃう? そうみたい。他のクラスの先生からも演説よかったよ、と言われた。
でも。オシメ、やらかしてしまった。
ダー君の対立候補の応援演説は、ドウ君というオシメ様と同じクラスの男子だった。そのドウ君に思いを寄せる女バスの女王がいる。彼女はクラスは違うのだが、休み時間のたびにオシメ様のクラスに押しかけ(違うクラスの教室に入ってはいけないため、廊下からドウ君の様子を伺い)、ドウ君に近づく女子がいようものなら、手下を使って蹴散らかしている。しかし彼女本人はドウ君に告白していないらしい。周囲に因縁つけるくらいなら、早く告って、公式に唾つけるか玉砕するかしてくれよ。
オシメ様も一度、クジ引きで彼の隣の席になった時期、体育のドッヂボールで女王とその取り巻きからやたらと狙われたことがあるらしい。たとえドッヂボールとはいえ、他人からあからさまな悪意を向けられたことがないオシメ様にとって、結構ショックな出来事だったようだ。
さて、今回。ドウ君とオシメ様は、同じ副会長選で応援演説をし、結果としてオシメ様の演説がウケてしまったためにドウ君が応援した候補は落選した。つまり、はからずもドウ君をやりこめた形になったオシメ様は、女王の敵になってしまったわけだ。
女王の敵となった影響はダイレクトに現れる。オシメ様が廊下を歩くと、くすくす笑いが起きたり、なんで○○君(ダー君の対立候補)が負けんのー?とこれ見よがしに声が上がったりしたとのこと。
オトノ様は、そんなヤツほっとけ、無視しろ、気にすんな、と言うけれど、実際その空間で時間を過ごさないといけないオシメ様にすると、無視はできてもイヤな気分になることは事実だし、オトノ様のアドバイスは解決にはならない。
オシメ様は自分の機嫌の取り方を知っている。TikTokの後は、お気に入りのニッチェのコントを見て、最近ハマっている「ディセンダント」と「ゾンビーズ」の歌を聞いて、大好きなハリー・スタイルズの写真を眺める。なんとか浮上しようとしているんだな、と先の妙な沈黙の意味を知る。
しかし。最近の子どもはすごい、進化してると感心した矢先に、中学生の変わらなさを目の当たりにするとは。自分たちと同質でないものの認定と排除のやり方は、今も昔も変わらないものだ。