難民からの脱出

そろそろなんとかしなくてはと思いつつもずぐずしていると、オシメ様が「このあいだ散歩してたら、いい感じのお店見つけたし」とホットペッパービューティーで強引にカットの予約を入れてくれた。とはいえその美容室の場所も「あのへん」くらいの認識しかなかったし、なんにしても初めての店でもあるので、オシメ様が付き添ってくれることになった。

私を担当してくれたのは、ナナホシ君より少し若いくらいの男性だった。オシメ様のアカウントで予約をしたものだから、ずいぶん若いお客さんが来るんだなと思っていたそうな。フロアには私を含め4人の客がいたが、いずれも私と同年代の女性だった。この店の客は40〜50代の女性が中心らしい。開店から30年を迎えるとHPに書いてあったから、当初からの客が店とともに育っていったということなのかもしれない。

ナナホシ君のところへ通っていた時は、平日夜か週末朝イチの時間に行くことが多かったので、他の客に会うことがあまりなかった。だから目についたのかもしれないが、ここでは全員が白髪染めをしていた。一般的なヘアカラーなら、何色にする?今回は明るめ?などと色見本を見ながらの相談タイムがあるはずだが、そんな会話は一切なく、黒いシートをかけられてテキパキと薬品が塗布されていく。隣の人は私より10歳は若そうだったが、スタッフは彼女と「すき家」と「吉野家」どっちの牛丼が好きかといった話をしながら、せっせと黒い染料をかきまぜていた。一人帰って入れ替わりで入店した客も、おもむろに白髪染めから施術が始まった。

初回だからとりあえずカットだけ、まずはお手並み拝見、という流れだと思われたかもしれないが、私は基本的にカットしかしない。ナナホシ君の時は、コスパ悪い客でごめんね、という思いから、たまにヘアオイルを買ったり、オシメ様を連れて行ったりと「配慮」をしていた。いずれここでもそういった「配慮」が必要になるのかもしれない。

毛量多いですねーと言われながらも1時間程度でカットは終わり、ひさびさにさっぱりした。いつもの私の髪型に戻った、という感が強い。特に不満はないし、次もここへ行くのかなぁと、ぼんやりと思った。美容室難民終了かというと、どこかまだふわふわした感じがある。二十年間の喪失を受け止めるにはもう少し時間がかかりそう。